そこまできたか

mizunox2004-07-03

 ばあさんが今日自分の息子、つまりおれの親父のことを自分の兄やといいだして聞かない。写真を見せてもこの人は兄やと言い張る。ほなおれは?「あんたはひろくんや。」ばあちゃんの何?「どうゆう関係かはわからん!」この人はばあちゃんの長男で、おれはこの人の息子やしつまりばあちゃんの孫やで!とちゃんと伝えても、頑固に「いや、この人はうちの母親の息子や!」まあ別の日に聞いたらまた自分の息子ってわかるけど、こうゆうことがだんだん増えていき、しまいにはわからなくなるんやろう。
 ばあさんがボケてわからなくなって間違っていることを言っている時に、おれは「そうやな〜。そうやな〜。」とそれを認める返事はできない。例えば、今回の件も「そうやな〜兄さんやね〜。」なんて誰が言えますか?これがもし介護の専門家や、施設のスタッフの皆さんやったら痴呆の老人と接する方法の一つとして否定しないやり方もある。ばあさんを怒ってしまうと怒られた内容は覚えていなくて、ただ誰々に怒られた!きつい言い方しはる!とそのことが頭に残る。だから、おれとかにさっきあんたによく似たひろくんにボロカスに言われた!とかあんたの兄さんはひどい人や!とかおれ本人やのにおれに怒られたことだけをブツブツ愚痴る。
 おれはばあさんの言うことをけっこう訂正しているかもしれない。はっきし言って話の90%くらいわからない。どうゆう観点で物事をとらえているか?やはり痴呆が進むと常識の範囲で話し合ったり、言われることをイチイチ気にしたり、真剣に聞くとこっちがほんまに参ってしまう。孫やし家族やからやはり感情が表れてしまうし、何でもうん。うん。って聞く心の力量はおれにはない。本能のままというか思いついたままにしゃべって、気をつかったり相手を立てたりするしゃべり方もできなくなっている。ほんまにおれをどんなに傷つけているのか、本人はまったくわからないんやろね。しかし訂正するたびに、ばあさんの頭の中ではわからない回路が渦を巻き絡み付いてさらに複雑化しているのだろう。鬼のような表情になって本人は考えても考えてもわからない、納得できない。
 毎日出て行きたいとか、ほんまにこの生活を放棄して波乗りで日本中を周ってしばらく家を空けたいと思う。でもそれも無理、ばあさんが生活できなくなる。おれの人生の一番頑張らなければいけない時期を捧げているのか?もしくはばあさんの残りの人生を少しでも豊かなものにしてあげるのが良いのか?おれが夢を叶えて仕事につき、この家を本当に空ける状況に来た時、ばあさんはこの家にいたいのにおれの夢と引き換えに施設に行かねばならないのか?なんかおれが左右するみたいで気が沈む。夏の暑さがまたばあさんの症状を侵攻させる。